筑波大学地球学類情報誌 「地球人」 2012年度第2号(2012年6月25日),pp.4-5より転載

先生方にインタビュー!

筑波大学大学院生命環境科学研究科 地球環境科学専攻 
       人文地理学分野 教授  山下清海 先生


Q.趣味・特技は何ですか?
A.旅行や写真です。
以前は東南アジアの調査によく行っていましたが、最近はヨーロッパ、北アメリカ、オセアニアなどにも出かけています。
中国にも毎年調査に行きます。

Q.先生の研究のテーマやその手法を教えてください。
A.専門は人文地理学、特にエスニック地理学です。
大学院生の時からずっと華人(華僑)やチャイナタウンの研究をしてきました。
修士論文では横浜中華街をテーマにしました。
もちろん、華人の出身地である中国の調査も続けています。
聞き取り調査や景観観察など人文地理学の基本、オーソドックスな方法で研究をしています。

Q:研究での思い出を教えてください。
A:やはり研究のテーマ上、中国人に聞き取りをする機会が多いのですが、最初は閉鎖的ではないだろうか、反日感情をもってないだろうかなど、心配事がたくさんありました。
ところが、話してみると親切で、プライベートな話でも聞かせてくれる人も多いです。
やはり聞き取り調査では、相手との信頼関係が大切であると痛感しました。
ただし、ここにたどり着くまでには、相当な時間がかかります。

Q:先生は学生時代どのような学生でしたか?
A:私は筑波大学の前身である東京教育大学を卒業し、できたばかりの筑波大学の大学院に移りました。
学生時代は旅行ばかりしていました。
「バックパッカー」という言葉ができる前からバックパッカーでした(笑)。
できるだけ現地の人と交流するために、いつも一人旅でした。
でも、知らない土地を一人で訪れるのは不安ですから、事前にその土地のことについていろいろ調べ、本を読むわけです。
それがよい勉強になりました。
勉学に関しては、以前、大学院に進む人は優秀な学生ばかりでした。
当時は大学院に進学することを、「大学に残る」とよく言っていました。
大学院の定数が少なかったので、受験科目にある第2外国語のドイツ語の勉強のため会話学校に通ったりして、一生懸命に受験勉強しました。
当時(1970年代後半)のつくばは、とても不便でした。東京に用事で行く友人がいると、必要な物の買い出しを頼んでいました(笑)。

Q:研究を進める上であるいは人生の中で先生のモットーは何ですか?
A:「フィールド(現場)主義」です。
現地に出かけ、よく観察し、人の話を聞き、よく考え、発見することが大切なのです。
フィールドで刺激を受けて、自分の研究のストーリーを考えていくというのが、私の基本的な研究スタイルです。
今の学生たちには、もっとフィールドに出てほしいと思います。
フィールドでは、人文地理学のおもしろいテーマが山のようにころがっています。
そこからオリジナルな発想が生まれてくるのです。

Q:この分野を目指す学生に必要な要素、求めるものはどんなものですか?
A:新聞を読み、テレビのニュースをよく観ることですね。
日頃から世の中の動きや社会的問題に関心をもっていると、人文地理学の研究テーマには困りません。
取り組みたいテーマが多すぎて、一つに絞るのに苦労するかもしれませんが(笑)。
ニュースの表面だけでなく構造的な部分まで理解すると、次から次に自分の関心が広がり、知識が深まっていきますよ。

Q:先輩方の就職先はどういった所なのですか?
A:人文地理を学んだ学生や院生は、全国各地の企業や学校現場で活躍しています。
東京教育大学時代から、「地理学を学ぶのなら東京教育大」と言われ、東京教育大や筑波大の地理学は、日本の地理学界をリードしてきましたし、日本の大学の中で地理関係の大学教員を最も多く輩出しています。
たとえば、私の大学院の同期生をみると、6名(私も含めて)が大学教授になっています。
最近においても、筑波大の大学院で人文地理学を専攻した若い人たちが、全国各地の大学にどんどん就職しています。
筑波大学の人文地理学では、院生をフィールドワークで鍛え、GISも重視しているので、そのあたりが評価され、大学教員としての就職につながっているのではないでしょうか。

Q:学生へのアドバイスをお願い致します。
A:1、2年の学生達はまず、社会的問題に関心を持って、もっと本を読んでほしいです。
今の学生達は読書量が不足していますし、それで文章を書くのが、あまり上手くありません(特に地球学類!)。
3、4年生には、もっとフィールドに出てほしいです。
小さな世界に閉じ込もらないように。
私は学生に「フィールドで生(なま)の話を聞きなさい」とよく言っています。
そこから、借り物ではない、自分のオリジナリティあふれる研究の発想が生まれるのです。
まずはフィールドに出ることです。海外に出れば、人生観が一変しますよ。

Q:オススメの文献を教えてください。
A:まずは私が書いた『エスニック・ワールド―世界と日本のエスニック社会』(山下清海編、明石書店)を紹介します。
この本は「世界には、こんなにもさまざまな人が、多様な生活をしているのか」について、楽しみながら学べる本となっています。
次に古い本ですが、『極限の民族』(本多勝一、朝日新聞社、1967年刊)です。
この本は私が学生時代に読んで、将来海外に出かけてフィールドワークをやりたいと思ったきっかけとなった本です。
ぜひ2冊とも読んでみてください。