立正大学環境科学部地理学科 教授の山下清海(やました きよみ)です。
私は,日本も含め世界各地のチャイナタウンを比較研究しています。
私のチャイナタウン研究の原点は,修士論文で研究した横浜中華街です。

今年(2018年)6月下旬,3泊4日でゼミの学生16名と,日本最大のチャイナタウン,横浜中華街を中心に人文地理学的なフィールドワークを実施しました。
変化の激しい横浜中華街の現状を解明するのが目的です。
不十分な内容ですが,その成果の概略をまとめてみました。
少しでも参考になれば幸いです。

ゼミ生16名

中華街大通り

1.横浜中華街には店舗が何軒あり,そのうち中華料理店は何軒あるのでしょうか?

ゼミの学生全員で横浜中華街の土地利用調査をし,以下の土地利用図(図1)を作成しました。

図1 横浜中華街の土地利用

図1の範囲内では,には,458軒のさまざまな商業施設(店舗)がありました。
最も多いのは,やはり中華料理店(224軒,全体の49.0%)でした(表1)
以下,多い順に料理店(中華料理以外)・カフェ・バー44軒,中華菓子・みやげ店42軒,衣類・雑貨・工芸品29軒,占い店27軒,リラクゼーション20軒,中華食品店(中国茶を含む)10軒などとなっていました。
また,甘栗販売所は10ヵ所,確認できました。

表1 横浜中華街の業種別店舗数  
中華料理 224
料理店(中華以外)・カフェ・バー 44
菓子・みやげ 42
衣類・雑貨・工芸 29
占い 27
リラクゼーション 20
中華食品・中国茶 18
ホテル 10
生鮮食品 8
コンビニ 8
その他 28
計 458
(2018年6月28・29日調査)

2.中華料理店のうち,どこの料理が多いのでしょうか?

中華料理といっても,広東料理,北京料理,四川料理,上海料理など地方料理に分けられます。
では,横浜中華街には,中国のどの地方の料理が多いのでしょうか。
横浜中華街にあるすべての中華料理店の看板に,「〇〇料理」と書いてあるのかについて調べてみました。

224軒の中華料理店のうち,最も多かったのは広東料理で30軒でした。
1858年の横浜開港以来,欧米の商人たちとともに香港や広州などから横浜にやってきた中国人のほとんどが広東人で,横浜の華僑社会は広東人中心に形成されました。
ですから,横浜中華街には,やはり広東料理店が今でもっとも多いのです。
広東料理のほか,多い順にみていくと,上海料理12軒,四川料理11軒,北京料理8軒,台湾料理5軒,東北料理4軒などとなっていました。
また,複数の地方料理を組み合わせた中国料理店もありました。
四川料理・上海料理3軒,四川料理・福建料理2軒,四川料理・湖南料理1軒です。

四川・上海料理店

 

1980年代後半から新華僑(改革開放以後,海外に出た中国人)が横浜中華街に入ってきました。
最初は中華料理店の従業員として,そのうち自分で中華料理店を起業する新華僑も増えてきました。
新華僑の多くは福建省北部の福清地方の出身でした。
「福建料理」といっても,ほとんどの日本人には,「何,それ?」となります。
日本社会へ適応する戦略の一つとして,日本ではよりメジャーな「四川料理」・「上海料理」などの看板を掲げる例が少なくありません。

 

このようなエスニック集団の適応戦略を「借り傘戦略」と言います。私自身の造語です。
借り傘戦略をていぎするとすれば,マイナーな集団が,よりメジャーな集団の姿を借りる適応戦略です。
海外で韓国人が日本料理店を経営するのを多く目にしますが,これも借り傘戦略の例です。

1990年代に入り,全国的に中国の東北地方出身(旧満州)の新華僑が増えてきました。
最近は,横浜中華街でも東北出身者が開業した中華料理店が増えてきました。
「東北料理」の看板は,それを反映しています。

中国東北料理店

調査したゼミの学生たちは,次のように体験レポートしています。
老華僑(新華僑よりも早く来日した中国人・その子孫)と新華僑の中華料理店には,違いがあります。
まず,老華僑の店は店舗面積が大きく,ゆとりのあるスペースで食事ができます。
また,肉まん・あんまん・焼売を売る土産物店や月餅など中華菓子を売る菓子店を併設している店が見られます。
これに比べ新華僑の店は,老華僑の店に比べ,店舗面積が狭く,隣のテーブルとの距離が近いです。

3.最近,占い店が目立つようですが?

横浜中華街の通りを歩いていると,確かにいたるところに占い店が目立ちます。

横浜中華街占い店
店内はクーラー設備が完備,占い本が置いてあり,待ち時間も快適に過ごすことができます。
店先には「500円」(手相のみ初回限定)の看板。

今回の調査で,27軒の占い店があることがわかりました。
占い店の分布図を作成してみました(図2)

図2 横浜中華街の占い店の分布

私(山下清海)は,1975年から横浜中華街の調査を始めましたが,1972年の日中国交正常化の中国ブーム,その後のグルメブーム,バブル景気で1991年頃までは,横浜中華街は中国料理店の増改築が進み,中国料理店の軒数も増加しました。

バブル経済がはじけ,横浜中華街を訪れる客1人当たりの消費額が低下しました。
新華僑の流入に伴い,中国料理店は「食べ放題」や安価な定食などの低下価格競争に陥りました。
後継者難も加わり,閉業する老華僑の中国料理店やみやげ店などもみられるようになりました。
しかし,そこにニッチ(隙間)ができ,非中国関連の店舗が,横浜中華街へ流入しやすくなりました。
その例が占い店やリラクゼーションです。
また,「ヨコハマおもしろ水族館」(旧よしもとおもしろ水族館),「すしざんまい」の横浜中華街への進出も同様の背景があります。

4.最近,マンションが増えていますが?

図3を見てください。

図3 横浜中華街のマンションとホテルの分布

私たちの調査では,18棟のマンションが確認できました。
横浜中華街では,バブル景気の1987年に同潤会山下町アパートが解体され,1989年に高層マンションのレイトンハウス横浜が建設されました。
これを皮切りに,マンションが増加しました。
2004年,横浜駅から元町・中華街を結ぶ「横浜高速鉄道みなとみらい線」が開通しました。
これにより,渋谷駅から元町・中華街駅までが35分で結ばれることになました。
みなとみらい線開通を見込み,横浜中華街一帯は高層マンションが急増し,今に至っています。

【参考】
図:横浜中華街のマンション

図:横浜中華街の駐車場

5.学生たちは,横浜中華街をどのように見たのでしょうか?

多くの学生は,横浜中華街を訪問するのは初めてでした。
福岡から大学進学で東京に出てきた私(山下)の学生の頃は,横浜中華街はデートコースの定番でしたが・・・。
横浜中華街に来て,どう感じたのか,それぞれに語ってもらいました。

・修学旅行生とたくさんすれ違ったが,皆,肉まんなど軽食を片手に持ち,座って食べている人が多く,店の中で食べようとする人はあまりいなかった。
軽食を食べた後のゴミは各自で持ち,ゴミ箱を探している人たちもいた。
軽食店が増えたが,街中にはゴミ箱が見られなかった。

食べ放題の店が目立ち,料金(例えば1,680円)が同じ店が多かった。
食べ放題の店は,甘栗売りのように,通りに出て客引きをしている店が多い印象をもった。

・食べログ,ぐるなびなどのネットでの高い評価を宣伝に用いている店舗が多いのに驚いた。
そこらじゅうに「ぐるなび3年連続1位」といったような立て看板が見られた。
しかし,よく見ると,それがいつのことなのか書いてなかった。

・横浜中華街では,中華料理店やみやげ店が立ち並んでいる地域と,マンションやアパートが多く建てられている地域が混在している。
と同時に,中国人と日本人も入り混じって生活している場所だと感じた。

・思っていたより日本人以外に,欧米系の人やアジア系の人が見られた。
外国人は日本を観光するルートの一部として中華街を訪れているのだろう。

・横浜中華街の一画にマンション用地があった。
マンションを建てる際には,景観に配慮して,1階部分を中華街らしい店舗にしたりする必要があるのではないか。

・横浜中華街を訪れている観光客を見ていると,その約8割が中高年で,若年層の観光客はあまり見なかった(調査は週末でなく平日に実施)。
見かけたとしても中学校か高校の制服を着た生徒であった。
平日だったので,週末は異なるのかもしれないが。男女でみれば,女性が多いと感じた。
おそらく,飲食店が多いので,女性の人気が高いのだろう。

・マンション,ホテル,複合商業施設,駐車場なども多く見られ,新しく建設中の建物も多い。
横浜中華街も新しい街に変わろうとしているようだ。

・もっとも強く感じたことは,客が気軽に休むことができる場所の少なさだ。
ベンチなどもほとんどなく,文字通りの「食べ歩き」状態になっている。
また,公衆トイレも2ヵ所しかなく,やっと見つけた商業施設のトイレは有料だった。

・私は,露店で食材を売っている在日コリアンの婦人と話をした。
かつて,中華街にはコリアンも多かったそうだ。
近年,福建省から来た新華僑が増えているが,老華僑もコリアンも,口をそろえて「福建出身の新華僑たちには勝てない」というらしい。
かつて繁盛した店の多くは,今では,自分の店を新華僑にテナント貸しするようになったという。

6.横浜中華街で急増している「食べ放題,飲み放題」に挑戦した学生たちは・・・

西門通りにある新華僑経営の中国料理店の「食べ放題,飲み放題」コースを,全員で味わいました。
学生のほとんどは,中国料理のオーダー式バイキング(メニューの中から食べたい料理を選んで注文し,作ってもらう方式)は初体験でした。

オーダー式バイキングの中国料理店の広告看板

その時,学生たちはどう感じたのでしょうか?。
選択したコース →「75品食べ放題コース,プラス2時間,50種類飲み放題付き」 3,480円(税込)

1680円コース食べ放題のメニュー
この中から食べたい料理を注文していきます。
メニューはこの他にもあります。

・回鍋肉を食べている時に気づいたことだが,家庭や街中の中華料理店で食べる回鍋肉はあまり辛くないのに,この食べ放題の店で出てきた回鍋肉はしっかり甘味と辛味があった。
つまり日本の中華料理は,日本人向けにアレンジされ日本風だったのだと初めて知った。

・食べ放題に挑戦してみて,思ったより料理が大盛で出されていたのが驚きだった。
個人的には,日本テレビの番組「ぐるナイ」の“ゴチになります!”シリーズのイメージがあったため,少量で,いっぱい楽しめるという勝手な固定概念を抱いていた。

・友達が,豚足を頼み,自分が最初に口にした時に,「味がイマイチ」と皆の前で言ってしまったのが原因で,誰も豚足に手を伸ばさなくなった。
仕方なく,四川麻婆豆腐,油淋鶏,回鍋肉など中華料理を食べながら,豚足を一個ずつ減らし,自分一人で一皿たいらげた。

・おいしいと感じたのはエビマヨ,チャーシュー,バンバンジー,手羽先の揚げ。

・食べ放題なので一品の量は少ないと想像していたが,予想外に量が多かった。
また,注文して出てくるまでのスピードも速く,次から次へと料理が運ばれてきて食べるのが大変だった。

・意外と辛い料理が少なかった。
四川風麻婆豆腐は辛かったが,担々麺や油淋鶏などはもっと辛いと想像してた。

・フカヒレスープは,思ったほどフカヒレ感は感じられなかった。
本当のフカヒレを使っているのかわからない感じだった。

・大きく丸いテーブルは,全員の顔が見えて話しやすい上に,テーブルが回転するので料理を取りやすく便利。
しかし,料理を取るタイミングがよくわからなかった。取っている間に回ることもあった。
〔山下清海注:学生のほとんどは,今回,円卓の回転テーブルを初体験〕

・安価な食べ放題コースの場合,肉料理のメニューが多く,肉や炭水化物を多めに食べると,すぐに腹がいっぱいになりそうな気がした。

・私はあまり食事で量が食べられるタイプではないので,食べ放題は好きではない。
しかもアルコールも飲めないので,同じ3,500円だったら高級な店で同価格の一品料理を食べるほうがよかった。

・生まれて初めて,北京ダックを食べたが,思っていたよりも包む皮が厚く,またダックの皮も想像より厚く食べ応えがあった。
北京ダックは,自分で餅皮で包むので,食べていて楽しかった。
でも,挟んでいたものが,本物の北京ダックなのかどうかは,私にはわからなかった。
山下先生は,首を横に振っていたように見えた。
北京ダックは肉だけでいただくものだと思っていたが,皮とキュウリなどといっしょにいただくということを初めて知った。

食べ放題の中華料理店出てきた「北京ダック」

北京ダックの有名店の北京ダック
全聚徳,2018年8月北京にて)